3rd Dance -第4幕ー第4幕 すべては、真実と共にある。 ― 涼ハ愛スル雪絵ヲ守ルタメニ、淡ク儚イ桜ノ華トナル・・・。 そして、最後の深夜の舞踏会の幕が開く。 2月14日、午前零時。 涼は、指定された場所である古い洋館(まるで廃墟のような・・・) ダン!! 涼は強く、玄関の扉を開ける。 「マリア!ちゃんと誘惑の水晶を持ってきたぜ。雪絵を返せ!!」 そう涼が叫ぶも、返事はない。 不安を感じながらも、涼は屋敷の奥へと進んでいく。 「ったく、今日といい、昨日といい・・・なんで誰もいないんだよ。」 そう涼がつぶやいた時、床が腐っていたのか、抜け落ちる。 そして涼は、真っ逆さまに落ちる。歩いていたのは、1階だから地下に落ちたことになるだろう。 「いって~なぁ。」 どうにか、立ち上がると、そこには人の気配が・・・ よく見てみると、人が倒れていた。 「・・・雪絵?」 倒れていたのは、雪絵だった。 「おい、雪絵。しっかりしろよ。」 涼は、雪絵を抱きかかえ、揺り起こそうとした。 「無駄よ、睡眠薬で眠っているのだから、当分の間は起きないわ。」 涼の後ろから、声がした。 「マリア、いや・・・マリー・ローズか。誘惑の水晶はちゃんと持ってきたぜ。雪絵は返してもらうからな。」 涼は、そう叫び、声のする方を、見据える。 「そう、ありがとう。じゃあ水晶を置いて帰っていいわよと言いたいところだけど。 あなた、どうやって帰る気なの?この暗闇の中から。」 「どうやってでも帰るさ。そんなことよりも雪絵を睡眠薬で眠らせて、こんな場所に放置してどういうつもりだ。」 「彼女の安全のためよ。」 マリアは、平然とそういった。 「なんだって。」 「だって、床が落ちてこの地下に来ると思っていなかったのよ。あなたとの最期の決着は、上の優雅な大ホールという舞台を用意していたんだから。 そうしたら、上で何かアクシデントが起きても、ここなら高瀬さんを巻き込むことはないはずだったのよ。でも何の因果か、あなたはここに来てしまったけどね。」 「誘拐しておいて、巻き込みたくないだって。」 「勝手なのは、分かっているわ。分かっているけど、こうでもしないと、あなたは水晶を渡してくれないし、話を聞いてくれないでしょ?」 「え?」 涼は、違和感を覚えた。 「そうでしょ?滝河君。あなたは・・・怪盗チェリーの時も、学校にいる時も・・・高瀬さんのことばかり見ているでしょ?私のことなんて・・・」 マリアの声音は、今までと明らかに違っていた。 そして、その声音を涼は、今まで何度も聞いていた。 「い、今の声は・・・」 「やっと気づいてくれたのね。もう暗闇は要らないわね。」 その言葉の後、地下の部屋に明かりが灯る。 そう、そこに立っていたのは、マリー・ローズでもなく、マリア・キャロルでもなくて・・・ 黒いドレスを身にまとった、神尾真理であった。 「神尾、どうして・・・?」 涼は、驚きのあまり、抱きかかえていた雪絵を落としそうになってしまった。 「そうね、答えは簡単よ。私が神尾真理であり、マリー・ローズでもあるからよ。滝河君、あなたが怪盗チェリーでもあるようにね。」 「いったいどういうことなんだ。」 「それは、今から教えてあげるわ・・・。」 ―私、神尾真理は・・・、父の哲幸、母の琴美と3人で平和に暮らしていたわ。 母が殺されるまでは・・・ そしてイギリスで彼と出会ってしまった。 (コトミ、コトミなのか?) ある日町を歩いていた時、突然英語で声をかけてきたのが、エドワードだったの。 今思えば、彼を無視していれば、こんなことにはならなかったのかしら。もう遅いんだけどね・・・。 彼は、いろいろ教えてくれたわ。私が知りたくないことまで・・・ 母が、エドワードの元彼女であったこと。イギリスで、私・・・マリアが生まれたこと。 そして、母が私を連れてエドワードのもとを去ったこと。 そんな、私にとってどうでもいいことを話しているさなか、彼はこう聞いてきたわ。 (コトミは、どうしている?) そう言われ、嘘を言おうかと迷ったけど、本当のことを言ってしまった。 (死んだわ。殺されたのかもしれないけど・・・。もしそうなら犯人は私の手で。) すると彼は、こう言ったわ。 (マリア。私のところで働く気はないか?そうすれば、私がお前に全てを提供する。) 彼は、「お前に、コトミを殺したやつを殺せるようにしてやる」なんて豪語して、私にいろいろな技術や情報、物品を提供してくれたわ。 声の変え方やトリックがそうね。 そして、イギリスより日本に帰ってきた私は、怪盗マリー・ローズでなく、高校生探偵の神尾真理として行動してきたわ。 去年の6月、母を殺したと自白した蒼波は・・・私の目の前で死んだわ。殺してもらった・・・が正しいかしら?滝河君。 7月には、「誘惑」、「虹」の秘密の鍵である、「月の鏡」のことを知ることができたわ。発信機と一緒に取り付けた・・・エドワードからのもらった高性能小型盗聴器を使ってね。 ほんとうに・・・滝河君、あなたのおかげよ。 そう、あなたのおかげで・・・。 「神尾・・・いったい何を考えてやがる?今の話だと、エドワードはお前の本当の・・・」 涼は、驚きを隠せなかった。 「そうね。それは、これから話すわ。」 真理は、語りを再開する。 ・・・修学旅行の時のこと覚えている? あなたが、ミュージアムへ行っている頃、私もホテルにはいなかったのよ。エドワードに会うためミュージアムに行っていたの。だから監視カメラに映っているあなたを見て、虹の水晶を見に来ていたことを知っていたの。だから言ったのよ。「私には分かるわ」って。 でも、私がエドワードに会いに行ったのは、ホテルについてすぐの電話。日本からの国際電話だったわ。 滝河君、覚えている?私が、父が怪我をしたって言ったことを。あれは、正しくは銃で撃たれたの。・・・エドワードの命令でね。 ・・・そして、父は帰らぬ人になったわ。 「ちょっと待て、お前の父さん。死んでたのかよ。何も言わなかったじゃないか。」 「言えなかったのよ。エドワードに私の心が悟られるから。だって、実の父がエドワードだと、一万歩譲って仮にそうだとしても・・・私の父は、神尾哲幸よ。 ・・・だから、エドワードを殺したの。彼に教わった技術で・・・。」 「だからって、人を殺していいって・・・」 涼は、たまらず叫ぶも、彼女の悲しみには届くことはないようだ。 「そうね、そうかもね。私もそう思うわ。・・・でも止められなかったのよ。あなたと同じようにね・・・」 真理の瞳からは、涙がこぼれ落ちていた。 真理の言葉が涼の胸に突き刺さり、そしてその真理の姿を目の当たりにして、涼は何も言えずにいた。 カチャ。 真理は、静かに銃を涼に向ける。 「何のまねだ?神尾!」 叫ぶ涼。それに対して真理は静かに答える。 「誘惑の水晶を置いて、ここから立ち去りなさい。」 「神尾・・・。お前、いったい何を?」 涼は、少し身構えている。 「滝河君、あなたにとってその水晶は、お姉さんの命を奪ったものでしょう? そして、それは私にとっても同じなの。母の命を奪ったものですから。もっとも父までもを奪われたけど・・・ 私には、許せないのよ。その水晶が。その存在が・・・。 だから私がその水晶の存在を、無に還すの。」 「それが、お前の目的だったのか?」 「そうよ。この水晶さえなくなれば・・・誰も宝を求めないし、殺し合いも起きないわ。そのために私は・・・。」 そう言うと、真理は銃を取り出す。 「・・・マリー・ローズになったの。」 「神尾。まさかお前死ぬつもりじゃねぇだろうな?もしそうなら・・・。」 「だとしたら?」 真理は、涼が何を言いたいかが、わかっていてたずねる。 「もしそうだとしたら、水晶は渡せない。」 「そう・・・やっぱり。じゃあ仕方ないわね。」 真理は、そう言って引き金に指をかける。 「滝河君、愛しているわ。・・・さよなら。」 真理は、涙を流しながら引き金を引いた。 ドン。 古い洋館の地下室に、銃声が鳴り響く。 そして数分後、その洋館は炎上し、後に消防隊により火は静まったが、その焼け跡からは水晶の破片らしきものが見つかっただけであった。 ・・・こうして、最後の舞踏会は幕を閉じたのであった。 ジャンル別一覧
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